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1年のひとつ目の山場を乗り越えた。

 

搬入の日はすこぶる体調が悪く、1週間後やり切れている姿を正直想像することはできていなかった。

意地でものりきりたい、とすこしやけになっている部分があった。

 

実際は、そんな意地を張らずに、

たのしさのあまりあっという間に会期の終わりを迎えていた。

 

いやもちろん、毎日なかなかしんどいものだった。

6月に体があまり動かなくなってから毎日8時間働くのがやっとだった中で

普段よりも4時間多く働くことが続いていたし

普段のあの優しい光とお客様にあふれた場所とは違って

蛍光灯、感染リスクも気にせずに密着している人々、百貨店社員さんにクレームを言うひと、

環境がふだんと180度違うもので、初日は会場内を通るたびに

パニックを起こさないか予期不安に襲われて、びくびくしながら呼吸を整えながら過ごしていた。

 

 

先週書いたように今年は私にとって2度目になる英国展への参加。

ただ去年は会期中通して物販をしていたものが

今年は前半がイートイン、後半が物販と自分たちの中では2部に分かれていた。

 

これが私にとってはすごく有り難く、楽しいものになった。

そして気付きを与えてくれるものだった。

 

まごころをこめてつくること。

食べてる顔を見ること。

ショーケースを目を輝かせながらみてもらうこと。

お会計や会話のやり取りを楽しんでもらうこと。

しっかりとおしなものをその肩の手に直接届けること。

 

どれひとつも欠かせないことなのだ、と一週間のいろいろな仕事を通して感じたのだ。

 

ただつくるひとになりたいわけでない。

ただはこぶひとになりたいわけでない。

ただおもてなしをするひとになりたいのではない。

 

お客様の喜ぶ姿を想像するところにはじまり

おもいをこめてつくり

おもいをこめておとどけ、あるいはサーブをし

喜んでもらう姿を自分の目で最後まで見届ける。

 

わがままなことかもしれないけれど

私はこのすべての一連の流れを自分でやって見せたい。

 

なにかひとつかけてはだめ。

おもい、つくり、とどけ、よろこびをつくる。

むずかしいことだけれど、なにかひとつをとるのではなく

よくばりに、すべてをできるようになること。

これをめざしていきたいんだと気づくことができる催事となった。

 

そしてもうひとつ、自分のお菓子を届けるうえで感じたこと、していきたいことがあった。

これまではただ単純に「よろこんでもらうこと」が目標であり

充実度につながるものだった。

そこをもう一歩超えたいと初めての境地に入った。

 

お菓子を選んでくれる人の見えない面には

何かを失った悲しみを抱えている人

日ごろの耐えきれない疲れや負担を追っている人

深い傷を胸に潜めている人

見せない部分で、楽ではない思いをしている人がたくさんいると思う。

 

そういう部分を

わたしのおかしがあったから

すこしあかるくなれた、だとか

すこしげんきになれた、だとか

そういうところでなにか働くことができたら

どんなにうれしいことか。急にそう気が付いた。

 

ただ楽しみ喜びを与える以上に

人の心にそっと寄り添い、少しの光でもそれをもたらすこと。

 

簡単ではない思いを知っている身だからこそできること

そんな選択をしていくことができたらどんなにすてきなことか、と

なぜかふと思う瞬間があった。

 

 

こんなふうにしてえらそうにいっているけれど

私がこう思えるのは

それを支えてくれる存在があるからだということを改めて痛感した。

 

応援のメッセージをくれる友人

こんなご時世なのに混雑の中足を運んでお菓子を選んでくれる友人

本当に大きな存在だとかんじた。

苦手な環境で立っていて無意識に張っている心の糸

大好きな人の言葉や笑顔があるとそれだけで

ほろっとゆるんで、楽な気持になることができた。

 

中日の、早出もしたし夜も遅かった日、

自分の中では考えられないほど、長い時間いちにちの中でお仕事をして

こころはきらきら、楽しい気持ちで満たされていたけれど

さすがに退勤した瞬間、体力の限界ぎりぎりに達していて

ぶわぁっと涙が出た。

 

いやな涙ではなく充実の涙だったとは思うんだけれど。

 

いてもたってもいられず、声を聴きたい人に電話をし

直ぐに出てくれた。

「おつかれさま」

開口いちばんに穏やかな声で穏やかな言葉。

こんなにシンプルにこの言葉が心の奥に染み入ったのが初めてだった。

 

「冷たい野菜のうどんを作って待ってるからね~」

 

誰かがご飯を作って待ってくれていることってこんなにも

嬉しいことなんだ、、

今までもそんなことって何度もあったはずなのに

ここまで胸にじんわりと響いたのは初めての子とだった。

 

おうちにつくと

豆乳ベースの冷たいおだしに

みょうが、うめ、大葉、ほかにもたくさんの私の大好きな薬味、いか

 

私が週明けに消化不良を起こして何度も戻していたことを心配してくれて

消化のいいものを用意してくれていた。

まずはだしのまま、薬味をたして。途中に他にもゴマかつおぶしをもってきてくれた。何通りもの方法で味を楽しませてくれた。

いたわってくれるその気持ちをここまで実感したのは人生で初めてのことだった。

 

嬉しくて幸せで温かくて

大泣きしたかったけれど

泣いて心配かけるより、二人で笑って過ごしたいなという気持ちがこみあげて

なみだはなんとかひいた。

 

むかしとほんとうにかわれたな、わたし。

 

今は穏やかで二人でいる時間

にこにこしている時間を大切にしたいと思って

むりやがまんもせずに

ありのまま優しい時間をお互いに作り出せるようになったと思う。

 

そうさせてくれる彼には本当に、感謝をしなきゃね。

 

 

たくさんの支えがあって無事に催事は終了。

終わってから、また体の調子が微妙なんだけれど

思うままに寝まくっていたら少し落ち着いたかな。

 

気づけば鈴虫がなく夜になっている。

 

大好きな恰好ができる涼しい季節が少しずつ、近づいてきている。